比内地鶏を天敵から守る〈その1〉

芳醇な比内地鶏の作り方

比内地鶏を天敵から守る〈その1〉

1. ネットと金網、電気柵

空から地上から、鶏を狙っているさまざまな野生動物たち。

鶏舎は小坂町の更望園と鹿角市毛馬内の鹿角苑にありますが、どちらも近くには小高い山があり、さまざまな野生動物が生息しています。中でもタヌキ、キツネ、イタチなどは頻繁に鶏舎の近くに出没し、鶏舎の中の鶏たちを狙っています。「地上はもちろん、上からはトンビやカラス、時にはハヤブサなどの猛禽類も狙っているので一時も気が抜けません」と語るのは、「比内地鶏・地のもん王国」の職員・工藤孝弘さんです。

工藤さんは、社会福祉法人「花輪ふくし会」が運営する鹿角苑で、障害に負けずに働きながら暮らす人たち、いわゆる利用者さんと一緒に比内地鶏を飼育して10年以上、飼育のスペシャリストです。「鶏たちを健康に育てる技術はほぼ確立されたと思っていますが、鶏たちを襲う天敵との闘いには終わりはありません。それこそイタチごっこです」と工藤さんは顔を曇らせます。


比内地鶏の天敵たち イタチ、ハヤブサ、トンビ、キツネ


天敵との闘いは、まさにイタチごっこです。
生まれたてのヒヨコを約4週間育てる幼生舎と、生後4週間目から出荷まで育てるビニールハウスの鶏舎は全て地面から上80cmは網目が13mmの金網で、さらにその上は目の細かい防風ネットで覆われています。これで地上から襲おうとする動物は防ぐことができます。
「地面から上を覆うだけでは片手落ち。敵は土を掘って下からも侵入してくるので、地面から60cm下まで金網を入れています」と工藤さん。それでもたまに金網の近くからさらに深い穴を掘って侵入を試みる天敵もいるといいます。そんな動物への対応策として、鶏舎の周囲には上下2本の金属線が張り巡らされています。「これは電気柵です。敵が鶏を狙って鶏舎に侵入しようとするのは主に夜。ですから夕方から朝にかけてこの電気柵に電気を流しています」と工藤さんは説明します。
動物たちが電気の流れている電線に少しでも触れるとビリビリと感電し、驚いてそれ以上は近づくことはできません。しかも、一度感電した動物は感電が恐ろしくてしばらくは鶏舎に近づかないとか。しかし電気柵にも弱点があります。それは放電です。電線に草や木の枝などが接触すると、そこから電気が流れてしまい動物たちに電気は伝わりません。「ですから電気柵の近くは頻繁に草刈りをして、草が電線に触れないように注意をしています」と工藤さん。確かに、どこの鶏舎も電気柵の周囲の草はきれいに刈り払われています。


土を掘って侵入しようとする動物を防ぐため、金網は地面から下60cmまで入っています。 土を掘って侵入しようとする動物を防ぐため、金網は地面から下60cmまで入っています。


舎にネットと金網を張り、運動場には防鳥ネット。
雪の積もる冬も油断はできません。「クマは冬眠しますが、キツネやタヌキなどは冬眠しませんし、雪の中で必死になって食べ物を探しています。動物たちは鶏舎の中には鶏がたくさんいるのは分かっているけど、電気柵が怖くて近づけません」と工藤さんは電気柵の効果を説明します。
しかし電気柵が雪に埋もれてしまうと電気柵を飛び越え、防風ネットを食い破って侵入する動物も出てきます。また積雪が電線を超えると雪に放電し、侵入を試みる動物たちには効かなくなってしまいます。このため雪が積もった朝は雪が電線に触れないように丹念に除雪。また雪面が高くなってくるとその高さに合わせて電線を雪面近くに移動させるなど、細かな対応が必要となってきます。
地方では年々耕作放棄地が増え、反対に狩猟者は減少傾向にあるため、キツネやタヌキなどの野生動物は増える傾向にあります。現在の場所で養鶏を続ける限り、比内地鶏を狙う野生動物たちとの攻防に終止符が打たれることはありません。


鶏舎の周囲を電気柵で囲っていますが、電線から放電しないように草刈り、雪寄せは欠かせません。 鶏舎の周囲を電気柵で囲っていますが、電線から放電しないように草刈り、雪寄せは欠かせません。
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